石鹸をそんなに使わないでください

さといものブログです

日記

2月6日

 アフリカから帰ってきたら家がなかった。いや、家など元からなかった。かつては路上で生活していた。荒神橋の下、日がな鴨川を眺めて時々はヌートリアと遊んだ。春夏はこれでもよかった。でも今は冬だ、家を求めた。

 運はほどよくある方だ。数日で家に招き入れてくれる人が現れた。それまではある研究室の書棚と書棚の間にヒモを引っ掛けて洗濯物を干したり、机の下に潜って夜を明かしたりしていた。それでもなんとかなりそうだったが、家はあったほうがよい。

 家主は聖人だった。独り身であるが大きな家に住んでいた。理由は聞かなかった。好きにしていいよと空き部屋を一室貸してくれた。毎日朝晩二食つくってくれる。映画は見放題。広いお風呂で脚伸ばし放題。申しわけ程度に皿洗いだけは自分の仕事として全うする。

 そういうわけで、今は他人の家で生活している。いわゆるヒモというのかもしれない。春になったら出ていく、ただそれまでの契約関係。ところで契約でない関係性というものはあるだろうか。血縁という生物的なつながり、婚姻、恋人、友人や単なる知り合いという関係まで連続的に、あらゆる関係性はいくぶん契約的な性質を持っている。まったく見知らぬ人にだって、特別な状況でないかぎり急には挨拶しないことがひとつの契約になっている。契約の定義が雑すぎる。

 

 この1週間で38度を超える熱を2回出し、ほとんど外出せず床に臥せっていた。ただひたすらYouTubeを眺めるだけの時間が続いた。すべきことは多くあるが何もできなかった。焦りを感じながらも無限に沈むベッドに体を預けているような意識の微睡みは心地よかった。

 

 

2月20日

 下書きに文章を放置したまま2週間がたった。2回熱を出したのち、さらに病状は思わぬ方向へと悪化した。詳細は略するがかなり稀な病気のようで、診断が出たときに笑ってしまった。今は幸い体調に問題はないが再発の可能性もあるらしい。不謹慎かもしれないが、ただおもしろさと引き換えに少しく再発を望む自分がいる。